「韓国市場は今が好機」enableX韓執行役員が語る日韓クロスボーダービジネスの最前線

「韓国市場は今が好機」enableX韓執行役員が語る日韓クロスボーダービジネスの最前線

日本企業にとって韓国市場はどのような可能性を秘めているのか。また、韓国企業の日本進出をどう支援すべきか。enableX執行役員の韓氏が、両国のビジネス環境を知り尽くした視点から、クロスボーダービジネスの機会と実践的なアプローチについて語った。

韓国市場の「今」を読み解く

——まず、現在の韓国市場の状況について教えてください。

韓氏:韓国市場は今、マクロ経済的には非常に良い状況にあります。KOSPIという韓国の株価指数は4,000ウォンを超え、数年前の2倍近くまで伸びています。不動産価格も高騰しており、ソウルの江南エリアでは、マンションを購入するのに3億円から5億円が必要という状況です。

外形上は好景気に見える一方で、若者の失業率は高く、賃金も伸び悩んでいます。ここに興味深い消費トレンドが生まれているんです。

——どのようなトレンドでしょうか?

韓氏:不動産が高すぎて家が買えない。韓国では結婚する際に男性が家を用意する文化があるため、家が買えないということは結婚もしづらいという選択につながります。

その結果、若者たちは「未来への投資」ができない代わりに、「今の自分」にお金を使うようになりました。ブランド品や外車といったラグジュアリー品の消費が活発化しています。韓国はグローバルで見ても購買力の高いラグジュアリー市場として成長しているんです。

B2C市場の3つの機会

——日本のB2C企業にとって、具体的にどのような機会があるのでしょうか?

韓氏:大きく3つの領域があると考えています。第一に、ラグジュアリー・嗜好品市場です。先ほどお話しした若者の消費行動の変化により、百万円から二百万円単位の比較的手の届くラグジュアリー品への需要が高まっています。

第二に、インバウンド市場です。韓国から日本への旅行客は年間約300万人で、平均2.1回以上日本を訪れるリピーターが非常に多い。購買力があり、複数回来てくれる、そして近いから来やすい。これは日本のインバウンド業界にとって非常に魅力的な市場です。

——リピーターが多い理由は何でしょうか?

韓氏:今、最も購買力の高い30代から40代の韓国人は、子どもの頃から日本のコンテンツに親しんで育った世代なんです。私自身もそうですが、1990年代に北野武の『花火』が韓国で初めて上映された日本映画でした。その後、岩井俊二の『ラブレター』や、『スラムダンク』『ドラゴンボール』など、日本の文化が身近になった世代が今お金を持っている。

だからUSJの任天堂ワールドに行ったり、ワンピースのショーを見たりと、日本のコンテンツと関連した体験を求めて訪日しています。

——第三の機会は?

韓氏:日本の食文化です。韓国も米が主食で、醤油・味噌文化があり、食事が非常に近い。韓国ではコース料理のことを「お任せ」と言うくらい、日本の食文化が浸透しています。

実際、日本で修行した寿司職人が韓国で店を出すケースも増えていますし、居酒屋チェーンの鳥貴族も韓国に進出して、高級路線で展開しています。さらに、日本の化粧品ブランド「SHIRO」がソウルのソンスのエリアに路面店を出すなど、日本のB2C企業が韓国市場で成功する事例が出てきています。

B2B市場のポテンシャル

——B2B企業にとってはどうでしょうか?

韓氏:B2B市場も非常に大きな可能性があります。特に注目すべきは3つの領域です。

まず、コンテンツ制作のリソース市場です。韓国のデザイナーやエンジニアは、2000年代から日本のゲーム業界で活躍してきました。当時は人件費が安く、腕の良いデザイナーを雇えたため、Cygamesなどのゲーム会社の成長を支えたと言われています。

——現在も同じ状況なのでしょうか?

韓氏:今は少し変わってきています。中国やベトナムに外注していた動画制作が、現地の人件費上昇とクオリティの課題から、「それならクオリティが担保できて近い韓国の方がいい」という判断になってきているんです。

実際、東宝や東映が韓国で制作スタジオを立ち上げていますし、今年12月にはソニーミュージックが韓国で5〜6年前から開催しているアニメゲームフェスタがあります。日本のコンテンツ業界は韓国を重要な制作拠点として見ています。

——他の領域についても教えてください。

韓氏:第二に、エンジニアリングリソースです。韓国のエンジニア採用を専門とするKORECのようなサービスが登場していますし、日本のSI市場には昔から韓国人エンジニアが多く参入しています。第三に、B2B SaaS市場です。これは日本のスタートアップにとって特に興味深い機会です。

B2B SaaS企業が韓国を目指す理由

——なぜ韓国がSaaS企業にとって魅力的なのでしょうか?

韓氏:日本のスタートアップは今、大型上場でないと機関投資家が入らない状況です。しかし、日本市場だけで300億円、500億円の評価額を出せる企業はそう多くありません。

そこで海外展開が必要になるのですが、アメリカは競合が強すぎる。東南アジアはB2B市場そのものがまだ立ち上がっていない。その中で、韓国は現実的な選択肢なんです。

——具体的な成功事例はありますか?

韓氏:Datadog(データドッグ)というサービスは、グローバルで一人当たりの利益率が最も高い市場が韓国だそうです。 これは財閥系企業に一度導入されると、系列会社全体に広がるという特性があるからです。

また、セールスフォースとノーションも、グローバルで最も成長率の高い市場が韓国です。日本のSaaSでも、ジョブカンが韓国でうまくいっているという話を聞いています。

——なぜ今、韓国でSaaSが伸びているのでしょうか?

韓氏:韓国はB2B市場がまだ成熟しておらず、CRMやSFAといったツールの普及率が低いんです。これまでの韓国の営業は関係値ベースで、科学化されていませんでした。

しかし、Z世代が台頭する中で、関係値だけではセールスが難しくなってきている。SFAのようなツールが必要とされる環境が整いつつあるんです。実際、チャネルトークはSMB向けに年間経常収益(ARR)50億円を達成し、エンタープライズまで展開すればARR100億円は狙えると言われています。

enableXの強みと支援の形

——日本企業が韓国進出を検討する際、enableXはどのような支援ができるのでしょうか?

韓氏:私たちの強みは大きく3つあります。まず、チャネルトークでの立ち上げ経験です。韓国のスタートアップでは、日本で成功している企業はほとんどなく、その中でチャネルトークは代表的な成功事例です。そのため、韓国企業から日本進出の相談を受けた際、多くがチャネルトークの人脈を通じて私に紹介されます。

第二に、コンサルティングバックグラウンドです。特に韓国では「ブランド」が重視されるため、マッキンゼー出身者が多いenableXの経歴は大きなプラスになります。第三に、既存の大手エンタープライズ顧客を持っていることです。

——日本企業側から見た価値は?

韓氏:B2C企業に対しては、チャネルトークの顧客がほとんどB2C企業であるため、そのネットワークを活用できます。市場構造の理解、現地パートナーとのマッチング、マーケティング戦略の立案まで、両国での実務経験を持つ人材は極めて少ないため、そこが私たちの差別化ポイントになります。

B2B企業に対しては、ローカルパートナーの発掘、イベント開催、インプリメンテーション支援など、現地の商習慣を理解した上でのサポートが可能です。

韓国企業の日本進出支援

——逆に、韓国企業の日本進出はどのような状況でしょうか?

韓氏:韓国は起業の数が日本の10倍くらい多いんです。若者の失業率が高く、大企業以外で成功するのが難しい社会構造のため、起業せざるを得ない。しかし国内市場が小さいため、海外展開が必須になります。

日本市場は近い、政治的リスクが少ない、そして今は日韓関係が過去最高に良好です。そのため、日本進出を考える韓国企業が増えており、韓国政府も補助金を積極的に出しています。

——どのような企業が日本市場に関心を持っていますか?

韓氏:B2C企業では、化粧品スタートアップが特に注目しています。APRILSKIN(エイプリルスキン)が時価総額1兆円近くになり、韓国のVCは化粧品に積極投資しています。d’Alba (ダルバ)など、資生堂がベンチマークするような企業が日本市場に出てこようとしています。

B2B企業では、SaaS企業が日本のDXの遅れに注目しています。日本は一度導入されるとなかなかやめない市場特性があり、これは韓国スタートアップにとって魅力的に映っています。

新たな展開:M&Aとオープンイノベーション

——最近の動きについて教えてください。

韓氏:実は今、韓国企業の日本企業買収のニーズが出てきています。先日、韓国の音楽関連企業から、日本のライブハウスやミュージックフェス、芸能事務所を買いたいという相談がありました。

また、日本の大手化粧品メーカーの役員の方とお話ししたのですが、アモーレパシフィックを徹底的にベンチマークしたいとおっしゃっていました。興味深いのは、アモーレパシフィックもその日本の大手化粧品メーカーを気にしているという点です。

——お互いがベンチマークしている?

韓氏:その通りです。例えば、韓国のHyundai(ヒョンデ)は毎年、野村総研にトヨタの研究レポートを依頼しています。お互いへのベンチマーク関係を理解している私たちは、両方の企業をつなげることができる。これは大きな価値だと考えています。

オープンイノベーションという文脈でも、例えば韓国の化粧品スタートアップを集めて、日本の大手企業とのマッチングイベントを開催するといった展開も可能です。

不動産市場という新たな可能性

——他に注目している分野はありますか?

韓氏:実は、不動産が最も大きな機会だと考えています。さきほどお話ししたように、韓国では不動産が高すぎて買えません。一方、日本の不動産は相対的に手頃で、韓国人は不動産投資が大好きなんです。

最近、私のいとこから「周りで日本の不動産に興味を持っている人がいるけど、どう思う?」という相談を受けるくらい、関心が高まってきています。規制が入る前に実績を作っておくことが重要だと考えています。

クロスボーダービジネスの未来

——今後の展開について教えてください。

韓氏:日韓のクロスボーダーM&Aは確実に増えると見ています。実際、ケース数も増加傾向にあります。

例えば、韓国には日本のお菓子工場を買いたいスタートアップがあります。トヨタ紡織が今年3月にSK系列のバッテリー会社に20〜30%投資するなど、製造業を中心にサプライチェーン安定化のための投資も活発化しています。

——最後に、読者へのメッセージをお願いします。

韓氏:日韓のビジネス環境は、今が最も良好な状態にあります。お互いの市場に対する関心も高まっており、政府の支援も手厚い。このタイミングを逃す手はありません。

重要なのは、両国の市場特性と文化を理解した上で、適切なパートナーと組むことです。私たちenableXは、両国で実務経験を持つ稀有なチームとして、お客様のクロスボーダービジネスを成功に導くお手伝いができると確信しています。

B2CでもB2Bでも、M&Aでもオープンイノベーションでも、日韓のビジネス機会を最大化したい企業の皆様と、ぜひお話しできればと思います。

プロフィール:韓景旭 株式会社enableX 執行役員

  • アーサー・ディ・リトル・ジャパンに入社後、 製造業、商社、物流企業など合計15社の幅広いクライアントの案件に参画
  • 2017年からはBtoB SaaS スタートアップの日本事業立ち上げを担当
  • 2022年からは韓国育児用品ブランドのPoledの日本代表を務め日本事業の短期立ち上げを実現
  • 2023年からは韓国最大手VCのAtinum InvestmentのVenture Partnerとして800億円規模ファンドの日本運用をサポート。
  • 2024年からは日本企業向けの韓国進出サポート事業を開始し、複数の企業の韓国進出を支援

事例紹介

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